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イベント情報

【藤本智士×徳谷柿次郎×鳥井弘文】
現役ローカルプレイヤー3人が語る、
地方の「カネ」と「ヒト」

去る8/24(木)、藤本智士さん(編集者)の新著「魔法をかける編集」(インプレス)出版を記念したトークイベント「のんびりジモと暮らし」を「かもめブックス」で開催しました。著者の藤本智士さんはもちろん、WEBメディア「ジモコロ」編集長で株式会社Huuuu代表の徳谷柿次郎さんと、同じくWEBメディア「灯台もと暮らし」を運営する株式会社Wasei代表の鳥井弘文さんという、3世代の編集者が熱っぽく語ったローカルメディアの未来。イベントタイトルとは裏腹にエッジの効いた内容となり、各メディアのお金の流れにまで及んだトークの記録をご覧ください。

柿次郎 みなさんこんばんわー!

会場 こんばんわー!

柿次郎 すごい。満員ですねぇ。

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藤本 ありがたい! ぼく、絶対に東京で嫌われてると思ってたから、ぼくだけだと埋まらんぞと。そこで柿次郎と鳥井くんですよ。

柿次郎 いやいや全然。ぼくらなんてもう、ねぇ。5人くらいじゃないですかぼく目当てとか。

会場 ……。

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柿次郎 あぁ、この感じそうっすね。

会場 (笑)。

藤本 ぼくやったら鳥井くん目当てで来るけどなあ。

鳥井 いやいやいや

柿次郎 鳥井さん目当てで来た人、どのくらいいますか?

会場 ……(4~5人手を挙げる)

柿次郎 よっしゃ恥かかせた!

藤本 じゃあ、あとのみなさんはぼくらを見に来たってことで。

柿次郎 そうっすね。内訳はあえて聴かずに進めましょう。

藤本 で、今回は「のんびりジモと暮らし」ということで。3人それぞれがやってるメディア。ぼくの『のんびり』と、柿次郎の『ジモコロ』、そして鳥井くんの『灯台もと暮らし』。この3つを合わせただけのテキトーなタイトルをつけさせてもらったんですけど、正直、本気で田舎暮らし希望してるおじさん集まったらどうしようかと思てました。

会場 (笑)。

柿次郎 会場のみなさんの顔ぶれ、年代を見ていると大丈夫そうですね。

・全国ツアーの10か所目

藤本 ぼくね、既に全国10か所くらい回ってるんですよ。今回出版した『魔法をかける編集』のツアーでね。あと2ヶ月ほどの間にいま決まってるだけで26か所まわる予定なんです。

鳥井 ええっ! すごい数ですね。

藤本 うん。まだ続々と決まってるから、さらに増えそうなんやけど。そんなこと続けてるから、今日ももう、お腹いたくてね、2人ビールやけど、ぼく一人だけあったかいお茶貰てます。

柿次郎 全国巡っていくとね、どんどん内臓が弱っていきますよね。

藤本 柿次郎も色々まわってるもんね。

柿次郎 そうなんすよ。緩やかに内臓が黒くなっていってるのを感じてます。

鳥井 接待が凄いですもんね。ごはんの。

藤本 鳥井くん、接待されてるの?

鳥井 地方に行った日の夜は、豪華なごはんいただけちゃうことが多いですね。正直。

藤本 よろしいなー! 鳥井くん今いくつやっけ?

鳥井 今年29です。

柿次郎 にじゅうきゅう! そんな若いのにもう接待されるの? 豪華なご飯をいただけちゃうの?

藤本 いやーよろしいな~。

鳥井 やめてください! おふたりもそうですよね?

藤本 ぼくは、今だにそんなことないし、29の頃とか思い返しても悲惨やったわ。

柿次郎 あぁー確かにぼくもそうでしたね。ホントにひどかった。携帯がしょっちゅう止まってたころでしたね。

藤本 やめよかこの話(笑)。

柿次郎 ちょっと、早すぎましたかね。28〜29歳といえば、ぼくは編プロ修行2年目のころですね。まだまだひよっこで、地方に行く事もなく、取材もメインでやることはほとんどなく、アシスタントって感じの頃でした。

藤本 今34やろ? そっから5年ぐらいしか経ってないんやな。出世しまくりやんか。

・鳥井「呼ばれたときはこわかった」

柿次郎 はじまる前に1時間ぐらい話してたんですけど、今日鳥井さん、相当構えてますよね。

鳥井 いやぁ、ちょっとどう入っていけばいいかなと(笑)。

藤本 ぼくとは初対面なんですよね。ぼくが会いたいって、オファーしました。

会場 (ちょっと驚く)。

藤本 柿次郎や『発酵文化人類学』の小倉ヒラクとか、最近仲良くさせてもらってる人たちの口からよく、鳥井先生の話が出るのよ。

鳥井 先生はやめましょう!

藤本 いやほんまに、しょっちゅう話題に出てくるから凄い気になって……あぁ、悪口じゃないから大丈夫よ。それで、1ファンのようにTwitterをフォローさせて頂いたりとかしながら。

柿次郎 先生からフォロー返しありました?

藤本 返していただきました。

柿次郎 良かった~(笑)。

鳥井 よかったしといて(笑)。

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藤本 してもらってたから、今回の出演依頼もTwitterのDMでしたんやけど……ぶっちゃけ、メッセージ来たときどう思った?

鳥井 ちょっと怖かったです。

柿次郎 有名な先輩編集者から突然、「顔貸せ」ですもんね。

藤本 その言い方よ!

鳥井 それこそ小倉ヒラクさんとかからお話は聞いてたんですよ。敏腕編集者の方だと。

藤本 いやいやいや。

鳥井 年齢もはなれてるので、ちょっと怖いなっていうのが第一印象でした。

藤本 そらそうよね。ことわられへんよね。

柿次郎・鳥井 ハハハ(笑)。

・鳥井さんのSNSでのクレバーな振る舞い

藤本 『灯台もと暮らし』がいいのはもちろんなんですけど、ブログ『隠居系男子』も半端ないじゃないですか。この人のクレバーさはどこから来てんねんと。あと、ハートがすごく強い理由も気になる。

鳥井 ハート、強いですか?

藤本 うん。ネットの世界における、ある種のリテラシーなんかもしれんけど、自分の投稿に対する反対意見をどんどん飲み込んでさ、リツイートしていったり、いいねしていったりするやんか。あれはなに、戦略なの?

鳥井 ハハハ(笑)。

藤本 ぼくなんか怖いから、そんなんは見て見ぬ振りするんですよ。そんで、いい意見だけをRTする。

柿次郎 そんなん基本じゃないですか。反対意見は舌打ちして終わりです。

藤本 普通そうやんな? もちろん手当たりしだいじゃないと思うけど、戦略的にあれをやってるとしたら、クレバーやなあと。

鳥井 明らかなクソリプは見て見ぬ振りしますけど、真っ当な批判とか違う意見はあえてリツイートします。「ぼくが100%正しいんじやなくて、こういう目線もあるんですよ」ってのを、フォローしてくださってる方々と共有したいんです。

柿次郎 そう言って「聴く耳を持つボク」を演出してるんでしょ? 戦略でしょ?

鳥井 いやいやいや(笑)。

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柿次郎 まあでも、このご時世、一方的に褒めるとうさんくさくなる感じもあるじゃないですか。

藤本 それはそうやね。だからぼくも最近真似してる(笑)。ただ、やっぱり否定的な意見のRTはようせんねんな。いいねだけはする。

鳥井 ハハハ(笑)。

柿次郎 ぼくもあんまりしないというか。勿論「ジモコロ」「柿次郎」で検索するときはありますよ。ここ最近はそこまで否定的な意見は見かけないですね。

藤本 鳥井くんのブログは更新頻度もすごいもんね。

柿次郎 鳥井さんはいろんな仮説を持ってるんですよ。それを1日1仮説ぐらいのペースで、ちゃんとブログにしてる。インプットとアウトプットの早さがヤバイですよね。

鳥井 ブログを書くことで、自分の思いや意見について考える時間を確保しています。1日1回はそういう時間を作らないと、やることだらけになるじゃないですか。ボーッと過ごしてしまわないように、書く時間を確保していますね。

藤本 なるほどそうかー。そう思えばやっぱぼく、暇やな。

鳥井 いやそんなことないはずですよ。

藤本 いやほんまに。今ずっとゼルダしてるし(笑)。

・清流育ちの『ジモコロ』、泥水を飲んできた『もと暮ら』

藤本 今日は二人に聴きたいことがあるんよ。ネットメディアのお金の流れ。シンプルに、おじさんに教えて欲しい。ここで言えないなら、打ち上げの席でもええから。

柿次郎 全然言えますよ(笑)。前提としてですけど、ぼくより鳥井さんの方が、よっぽど泥水すすってると思います。ぼく基本、きれいな水飲ませてもらってるんで。清流育ちです。

藤本 清流ええなあ。

柿次郎 ぼくはめっちゃシンプルですよ。アイデムさんていうクライアントから毎月お金もらって作ってるのが『ジモコロ』です。

鳥井 もともとバーグハンバーグバーグの……。

柿次郎 そうですそうです。元々は、前職時代にいち会社員としてやらせてもらっていた仕事でした。当時、10人程度の組織でメディア部長みたいな立場にいたんですけど、立ち上げからの2年間は日本中を飛び回りました。あまりオフィスにいませんでしたね。

藤本 会社員なのにね。

柿次郎 ほんとに。なぜそれが可能だったかというと、アイデムさんが充分な予算を用意してくださったからです。

藤本 まさに清流やね。

柿次郎 すごくありがたいポジションでウェブメディアをやれているんですよね。だからこそ、ウェブで食えてない、まだ名前の売れていないライターを起用することも『ジモコロ』ならできる。清流に育まれて、『ジモコロ』はどっしりと、強くなれた。
ウェブメディアにとって大事なことは、突き詰めれば熱量とお金だけだと思ってるんですよ。このかけ算ですね。足し算じゃ無くて、かけ算。アイデムさんには感謝の言葉しかないです。

藤本 でもさぁ、みんな同じ疑問を持つと思うんだけど、そもそもアイデムさんはなんでそんなに放任してくれてるの?

鳥井 すごいですよね。自由にできる空間を。

藤本 アイデムさんが清流っていうのはわかったけど、ぼくらは清流がどうやって流れてくるのかを知りたい。

柿次郎 あー、『清流のひき方』ですね。

藤本 本にしたらめちゃめちゃ売れるよそれ(笑)。

・経費で旅行がしたくてはじめた『ジモコロ』

柿次郎 前職のバーグハンバーグバーグ(以下バーグ)っていう会社がまず、「ネットでふざける」ことのプロだったんですよね。ほとんどライバルのいない仕事をしていたので、「バーグさんお願いします!」という指名に近いような条件で仕事が生まれていました。

もちろん最初からそんな状況があったわけではなく、1年ずつしっかりと泥水もすすりながら、ブレずにやり続けた。その結果、コンテンツマーケティングやオウンドメディアみたいな言葉が出てきて需要が高まってきた感じですね。

藤本 ほうほう。

柿次郎 そんなある日、アイデムさんから「バーグさんと何かやりたい」というオファーが入ったわけですね。ぼくがその時、地方に目覚めていたというか、もっと全国行きたいなと思ってたので、「経費で旅行して〜」という不純な動機で提案に加わることになりまして…。

藤本 うんうん。

柿次郎 いろんな条件が重なってジモコロにGOが出た、と。ぼくがやったことって多分、節目節目で「お酒飲みましょうよ!」ぐらいかもしれません。「腹割って喋りましょう!」みたいなこと言ってですね。編集というか営業ですね(笑)。

藤本 なるほどなあ。

柿次郎 そして清流がひけました。

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藤本 やっぱりバーグハンバーグバーグにいたことはすごく運がよかったわけやんね。

柿次郎 本当にそうです。バーグはずっと『オモコロ』っていう自社メディアをやってるんですよ。5年、10年で積み上げてきた作ってきた信頼があって。そこにジモコロもハマれた感じですかね。先人たちのおかげというか。

藤本 ぼくも「ぎーりおにぎーりぎーり」やろかな。

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会場 (笑)。

藤本 でも、やっぱり数字を出さなきゃいけないわけじゃないですか。どんだけの人が見てくれてるのか、ネットならすぐ分かるわけでしょう?

柿次郎 そうなんすよ。Googleアナリティクスって言う魔物がいて、そいつが全部出しちゃうんですよね。滞在時間とかページセッションっていう呪文をつかって、ユーザーが1回あたり何ページ読んだかとかを露骨に出してくれちゃいます。

ぼく、その魔物の事知ってたので、アイデムさんに、「この魔物は悪いやつなんです。騙されちゃいけません。骨までしゃぶられます。ささ、こっちへ」って最初からずっと言ってました。「PVってなんですか! そんなんじゃない! 愛でしょう!」って。

藤本 「愛デムでしょ!」つってね。

柿次郎 ハハハハ(笑)。それ今度使お。まあ、そう言ったら担当の方が納得してくれたので、あとは一緒に、数値的な価値と文化的な価値の両面でアピールしながら運営していきました。あと、TwitterとかFacebookの反応をキャプチャして定期的に見せてましたね。記事についたコメントとか、シェアされている時にどんな感想がつぶやかれているのかとか。

藤本 あー、そういうの共有すんの大事やね。

・「そんなん、客持って店出てった店長やん」

藤本 なるほどなあ。でもアイデムさんもアホじゃないやん?

柿次郎 もちろんです。

藤本 数字面はそれでいいとしても、「こういう理由で成功します」って話はしたわけやろ? その辺のロジックはどうしたん?

柿次郎 そこはさっき話したバーグやオモコロの実績、そして抱えているライターの強みが大きかったと思います。

鳥井 Twitterのフォロワーもたくさんいましたもんね。

柿次郎 そうそう。10代20代のファンがいてくれました。初期はヨッピーさんやARuFaくん、カメントツくんみたいなプレイヤーに書いてもらえたのがありがたかったですね。

藤本 でも言うてみれば、柿次郎は、「客持って出ていった飲食の店長」みたいなもんでしょ。

柿次郎 人聞きが悪い(笑)。ただ、ちゃんと共存関係にあると思ってます。そこからちょっとずらしたところで、『オモコロ』とは違う、ローカルに寄った何かっていうのを探り探りやっていった感じですね。

藤本 なるほど、そこから『ジモコロ』を作ったのは柿次郎の手腕ってことやもんな。

柿次郎 いやー、いろんな人に支えてもらいながらなんとかですね。初期とはもう書いてる人もやってることもだいぶ変わってきました。

・『灯台もと暮らし』は「水源探し」から

藤本 で『ジモコロ』と『灯台もと暮らし』はまた全然違うわけでしょ?

鳥井 そうですね。清流なかったんで、掘るところからでした。

藤本 清流どころか流れてるもんがないわけやもんね。

鳥井 立ち上がりは本当に大変でしたね。元々は暮らしをテーマにしたメディアをやりたいと思ってはじめました。

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柿次郎 ローカルじゃなかった。

鳥井 そうです。新しい暮らしを体現している人たちを探していたら、たまたま地域にいる人が多くて。まずは徳島県の神山町ってとこから地域特集をはじめていきました。そのあと、島根の海士町もやって、いくつか出揃ったタイミングで、自治体さんから声がかかるようになったという感じですね。

藤本 なるほど。

鳥井 ウェブにアップしているだけだと全然知ってもらえなかったので、イベントとかもたくさんやって、そこに来てくださった方々に思いを伝えてということを地味にやって……。

藤本 どんな人が最初に声かけてくれはったの?

鳥井 自治体さんとか現地の広告代理店の方々とかですね。

柿次郎 鳥井さんがヤバイのは、Waseiっていう会社を立ち上げたとき、最初から3人雇ってることだと思うんですよね。

鳥井 そうですね。最初4人ではじめて、社員は3人。

柿次郎 当時25.6でしょ?

鳥井 26ですね。

柿次郎 26でいきなり社員3人雇うってヤバくないですか? 勝算があったわけじゃないでしょ?

鳥井 そうですね。だから最初の頃は本当に編プロみたいな形で、他社さんのウェブのコンテンツとかを作って納品してという感じで収益化していました。

柿次郎 それだけでいけます? 3人とメディア回すのって、相当ハードモードですよ。ぼく、ずっと疑ってることがあるんですよね。

鳥井 な、なんですか?

柿次郎 「鳥井マネー」あるでしょ?

藤本 鳥井マネー!? なにその隠し井戸!

鳥井 ないですないです(笑)。ギリギリですよ、ほんとカツカツでしたから。

柿次郎 本当ですか? 身体売ったりとかしてないですか?

鳥井 してないしてないです!

藤本 鳥井マネーってそれ?

柿次郎 そうそう。鳥井さん、なんか人気出そうじゃないですか。

鳥井 最初集めた資本金を家族とか親戚とかにお願いして、集めただけです。

柿次郎 ええ〜。

藤本 そのさ、26で起業して人雇ってやっていくっていう発想がまずぼくらと違いすぎひん?

柿次郎 すごいっすよねー。

・「28超えたら若いのに頑張ってんなって言われへんくなるで」

藤本 ぼくもね、28の時に会社作ったんですよ。それは明確なきっかけがあって、知り合いのデザイン会社の社長に「28超えたら、『若いのに頑張ってんな』って言われへんくなるで」って言われたのよ。

鳥井 それはほんとそうですよね。やっぱ30になったら、起業しても誰も助けてくれないし、専門的な能力がなきゃやっていけない。

藤本 うんうん。

鳥井 逆に20台半ばぐらいでやると、周りが助けてくれるからなんとか生き残れるって話を聞いたことがあります。

藤本 そんな風に言われたのが、もう29になりかけのときで、急いで社長にならなあかんと思ったわけです。それで、当時有限会社にするのに400万とかいったんかな。

柿次郎 えー! めっちゃ高い。

藤本 そやで。

柿次郎 今10万とかでできますよ。

藤本 当時は有限会社で400万必要で、でもそんなお金なくてさ。ただよく聞くと、それは見せ金みたいなもんで、一回通帳に記入してればOKみたいなところがあったのね。そん時、うちの借金まみれの親父が新しく食堂やるっていうて、400万くらい借りてたわけよ。

柿次郎 ほぉー!

藤本 親父に言うたら、「お前、このカネ使え」と。一回お前の通帳に入れるから、会社できた瞬間に返せと(笑)。

柿次郎 いい話じゃないですか。

藤本 ほんで29の誕生日の1ヶ月前、一応28でギリギリ社長になれたんよ。実質の資本金なんて勿論0。あるはずのお金がないから余計しんどいっていうね。

柿次郎 そうですよね。周りからみたら、お前400万あるはずやんけって話ですもんね。

藤本 そうそう。だから全然違うよ。そういう意味では。おんなじ起業でも。

柿次郎 確かにそれぞれ違う色の泥水飲んではりますねえ。

鳥井 でも、柿次郎さんコースが一番いいと思います。

藤本 ほんまに。ぼくも清流飲みたいわ〜

柿次郎 そんなヤクルトみたいに(笑)。まぁでも、本当にぼくは運が良かったなーと思います。ただ、清流はいつかせき止められるかもしれません。世の中、何が起こるかわからないので。

藤本 まぁそうやんね。

柿次郎 ずっとアイデムさんとやっていきたいのはもちろんなんですけど、のっぴきならない事情で一緒にやっていけなくなったときに、他のスポンサーが出てきてくれるぐらいのメディアにしておきたいなとは思います。サッカーのクラブチームとか、そうじゃないですか。

鳥井 それ、かっこいいですね。

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・地方の予算

藤本 そうだね。だから、結局今話聞いてて思ったのは、アイデムさん的な人たちを募りたいってことやんね。『ジモコロ』みたいな成功事例がきちんとシェアされるといいよね。

柿次郎 そうっすねー。結構無駄に広告費使ってる会社多いじゃないですか。

藤本 うんうん。

柿次郎 とりあえず3千万円かけてキャペーンサイト作っといてーみたいな。それで蓋開けたら30いいねしかついてないパターンとかあるんですよ。数じゃないとはいえ、30て!

藤本 うーん。3千万円かけてね。

柿次郎 もう社員だけでなんとかなるやんその数!みたいな。

藤本 鳥井くんの場合、地方の自治体さんが『灯台もと暮らし』にちゃんとオファーをしてくれてるのってええよなって思う。

鳥井 ありがたいです。自治体には、同世代の方々が増えてきてるんですよ。なんやかんや問題意識は抱えてるものの、上のおじさんたちがいるから何もできない。でも、なんとかしたい。

これくらいの予算だったらあるんですけどどうにかなりませんか?みたいな。そういう、従来の行政の方とは違った発想の方々が今、各地方に地方に出て来ているので、そういう方達に響くものを頑張って作ろうとしてますね。

藤本 逆に言えば、まだ大きい額の仕事は来てないんだ。

鳥井 そうですね。

藤本 その、若い人たちが動かせる範囲の。

鳥井 だから4桁(1000万円以上)なんてもちろん行かないですね。

藤本 当然行かないよねー。

柿次郎 でもそういうケーキの1ピースみたいな仕事もいいですよね。ぼくら、ホールは食えないっすもん。いわゆるウェブの予算感て、相性いいはずなんですよね。そういう仕事と。

藤本 自治体さんをいろいろ見てて思うのは、やっぱ大きい金額は、大きいとこが持っていくじゃないですか。

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柿次郎 そうなんすよー。

藤本 じゃあその大きいとこが持って行ったお金がその先がどうなんのかって言うと、付き合いのある編プロとか仲良いカメラマンとかにやってもらいつつ、出来るだけ粗利残して、自分のとこの社員の給料と社長の報酬しっかりキープみたいな世界でしょ。その流れは断ち切りたいよね。

柿次郎 そうですね。そんだけあったらもっと出来ることあるのに!と思うことは多いです。

藤本 地方創生とか、お金がアホみたいにいっぱい動いてるところってあるから、その予算を取れる説得力みたいなものを、ぼくらが作って行かないといけない。

柿次郎・鳥井 そうですね!

・なぜ『のんびり』は「のんびり」だったのか

藤本 地方のクリエイターが生きて行くパターンの一つとして、大手代理店さんの東北支部みたいなところから仕事をもらって、粛々とやってくっていうのがあるよね。

柿次郎 はい。

藤本 ただ、これはもう毒されたやり方だと思ってて。いくら地方支社とはいえ、東京の会社やんか。やっぱりなに作っても、東京のコピーみたいになるんよね。そこはすごい難しくて。東京のクリエイティブは、東京だから成立してるわけじゃないですか。東京だからこその良さみたいなものは多分にあるし。

柿次郎 わかります。

藤本 それをそのまま地方に持ってきても明らかに違うんだけども、なんかいまだにそういう作り方で仕事自体はまわってたりすんのよ。秋田のフリーペーパー『のんびり』は、そのあたりも変えていきたいと思って作ってた。

鳥井 どういうことですか?

藤本 まずは地元のクリエイターたちとチームを組んで、代理店不在でコンペに望んだりとか、あと『のんびり』ってタイトルも、代理店のみなさんは県庁のコンペとかに慣れすぎてるから、いかにこう、秋田らしさとか、秋田感みたいなものを入れ込むかに苦心する。だからまずはタイトルからそれを見せていこうとするわけね。

柿次郎 それはそれで、審査する人のことなめてる気もしますけどね〜。

藤本 他の代理店さんとかは、極端に言うと「のんびり」ではなく、『のんびり秋田』みたいなタイトルにしちゃうわけ。秋田県の税金なんだから秋田を感じさせなければならないと思い込んでる。

でもこれね、ちょっと考えて欲しいんですよ。言うとくけど、そんなみんな秋田に興味ないぞ、と。少なくともぼくは当時、関西で「秋田行きたい!」っていうてるやつに1人もあったことなかったし。

のんびりしたい人はたくさんおるけど、秋田に興味ある人はそんなおらんやんか。じゃあ堂々と秋田って書いてる媒体を喜んで手に取るのは、秋田県人会のおじいちゃんたちくらいでしょ、と。

つまりは、タイトルに秋田をつけることで「のんびりしたいけど秋田には興味ない」という人たちを知らず省いてしまう。

柿次郎 そうですね。

藤本 それよりも都会の人のちょっとのんびりしたいなって気持ちに合うタイトルにして、且つ、なんか変わってるし手に取ってみようかなっていう表紙デザインにして、とにかく読んでみたら全編秋田だったみたいな。それで初めて、次の夏休み旅行の選択肢に秋田が入ってくる可能性が生まれるわけじゃないですか。

柿次郎 うんうん。

藤本 このロジックが、ぼくにとっては正しいんだけど、みんな、とにかく予算取りたいから媚びるプレゼンばっかするわけ。このスパイラルの果てに何があるかっていうと、役所のおっさんたちが偉そうになる。

柿次郎 はー!

鳥井 そうですねぇ〜。

藤本 これがめちゃめちゃやっかいなんよ。

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鳥井 はいはい。

藤本 業者の「お金ください!」からの、役所のおっさんの「出したってる」。この流れができるとやばい。

・藤本さんが惚れ込むデザイナー、「梅原真」とは

藤本 偉そうなおっさんでいうとちょっといい話があって。ちょっと一瞬話それるけど、戻ってくるから聞いてもらっていい?

鳥井 大丈夫です(笑)。

藤本 ぼくがすごい尊敬してるデザイナーさんに、梅原真さんて人がいはるねん。高知の人で、今も土佐在住の67歳。全然高知から出てこおへん人やねんけど、めちゃくちゃ素晴らしい仕事を続けてはって、知る人ぞ知る存在。

一回、六本木のミッドタウンで一緒に展覧会をして、そのとき一緒にトークショーをやったんやけど、そのときもなんだか業界がざわついたわけ。なんでか? っていうとトークはもちろんめったに表に出ない人だったから。たかだか数年前の話だけど、その頃は梅原デザイン事務所のHP一つなかった。

柿次郎 へー!

藤本 その梅原さんが、秋田県の仕事もしてはったのね。秋田イメージアップアドバイザーみたいな肩書きで。それがまたええ仕事してはんねん。「あきたびじょん」ていうキャンペーンのポスターなんやけど、「ょ」が限りなく小さいからぱっと見「あきたびじん」に見える。

柿次郎 ほうほう。

藤本 全国的にはその仕事が有名だし、梅原さんが秋田県に関わった最初の仕事として捉えられてるんやけど、実際は違う。

じゃあなにをデザインしたかっていうと、よく自治体がコンペをやるときに、こうこうこうで、こういうものの提案を募集するから、応募して来てくれと、まぁ、そういう要件が整理されたものがサイトにアップされたりするじゃないですか。

ああいうの見てると、たいがいどこの自治体もそうなんやけど、「これこれをいついつまでに提出すること」「そこにかかれてる費用は負担すること」って、常に上から目線で「~すること」、「~すること」って書いてある。

柿次郎 ありますあります。

藤本 でもね、役所の人たちによいアイデアがないから、人にアイデアくださいって言うてるわけで。それやのに何を偉そうにしてんねん!と、梅原さんは一クリエイターでもあるから、そう言うわけ。

そこでまずデザインされたのが、そういった募集に関する資料文面のデザイン、つまりは「よくぞこのコンペに参加してくださいました、ありがとうございます」。っていうのを一ページ目につけなさい、と。それが、梅原真さんの秋田県県庁における最初の仕事。

柿次郎 ほうー!

藤本 そもそも大好きな人だったけど、ぼくは間近でその仕事をみて完全に惚れました。絶対その通りやと思ったし、実際にそうする事で秋田の役所のみなさんの意識が変わっていった。だから『のんびり』が実ったのは、梅原さんが耕してくれてたからっていうのも多分にあると思ってます。

柿次郎 おじさん偉ぶっちゃう問題について、鳥井さんはどう思いますか? 嫌なおじさん、いるでしょ? 言っちゃいましょ!

鳥井 いやあ(笑)。なんというか、お金を持っている人が明確なのが良くない気がしていて。税金からそういうお金が出てきているからその決裁権を持つ人に媚びなきゃいけないとか、頭を下げてお金をいただいてという感じになってるんです。

そこがもっと変わってきて、たとえばふるさと納税みたいに、全国にいるその地方出身の方々から数百円ずつづつでも集めて、その地域特集とか何かしらのPRをする費用を賄えるってなったら、そこを無視していけるようになりますよね。そうなっていったら面白いなと。

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・教えて! VALUの使い方!

藤本 そうだよねー! まさにそういうとこなのよぼくの興味は。鳥井くんに会いたかったのはそういうのもあって。VALUとかpolcaとかさ、何か明らかにチェンジしつつある感じはあるやん。

柿次郎 わかります。(会場に向かって)なんかそういう、小さなお金を集めるプラットフォームみたいな仕組みとか、皆さんご存知ですかね?

会場 (みなさん頷く)

藤本 まぁまぁ、若い人はね。

柿次郎 東京だと、目に入ってくるのかもしれないですね。

藤本 東京だし余計というのは、あるかもしれないかもね。でも、柿次郎くらいの年齢(34歳)でも分かんない人いっぱいいるんじゃない?

柿次郎 世代的には全然いますね。ぼくは仕事が仕事なんで知ってるけど。

藤本 そりゃそうだよねー。

柿次郎 ただ、分かんない。VALUの使い方全然分かんない(笑)。

藤本 おれも分かんない。アカウント作って終わりやもんなー。

鳥井 そういう新しいものについて勉強する時間をどれだけ作れるかが、地方でやっていくうえですごく大事になると思います。

藤本 そやねん。ゼルダしてる場合じゃないねん。

柿次郎 いやぁ、ゼルダは最高っすよ。ゼルダは最高。

鳥井 ハハハ。

柿次郎 でもねー怖いって思いたくない。怖いんすよね。VALUって。

鳥井 使い方だと思うんですよね。新しいツールとかプラットフォームが東京中心にどんどん出てきている一方、そこにのるコンテンツは多分地方の方が圧倒的に多いんですよ。

柿次郎 めっちゃわかります。東京と地方を行き来してるとすごくそう思う。

鳥井 東京の人が使う方法もあるけど、それはなんか、ツールでツールを使ってるみたいなよくわからないメタ構造になっちゃうので。最近ぼくら、福島県にある昭和村っていう人口1300人ほどの村の取材をしてるんです。

そこでは「からむし」っていう麻の一種を育てていて、その織物が名産品になってるんですね。この生産工程がすごくて。女性たちがそのからむしから繊維を手作業で取り出して髪の毛ぐらいまで細くして、そこから結って布にして……。

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柿次郎 はぁー超大変。

鳥井 1年かけてそれを作るから1枚数万円とかするんですけど、それをどう売ったらいいのかがわからないと。まだぼくらもどうしたらいいか一緒に考えてる段階なんですけど。

柿次郎 ほうほう。

鳥井 例えばここにクラウドファンディングや有料オンラインコミュニティなんかが入ったらどうなるかな、とか。

10万円の麻はぼくらの給料では買えないけど、支えたい気持ちはある。500円ずつなら出せるし、それを集める仕組みもある。高い買い物をするとか、移住するとかそういうことじゃなくて、そうやっていい意味で手軽に伝統作業にかかわっていくなんてこともできるんじゃないかなと思います。

それに、作ってる過程とか姿勢とか、そういう姿勢からぼくらが学べる事は山ほどあると思うので。そういう掛け算は何かできないかなと思ってますね。

柿次郎 なるほどねー。そういうところに変に偏ってるお金が回っていけばいいよね。

藤本 立派だねぇ。

鳥井 なんかすみません一気に堅い話になって。

柿次郎 いやいや(笑)。

・いちばんマズいことになっているのは大阪、名古屋をはじめとした地方都市

柿次郎 ここらで、質問を受けつけましょうか。

女性客 はい!

柿次郎 おぉー来たぁ!! いいですねー!!

女性客 わたしは最近上京してきた人間で。5月まで、名古屋っていうローカルにいたんですけど、ローカルでイケてる大人がいる地域とか、逆に若者に元気がない地域とか、そういうのを肌で感じることってありますか?

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藤本 あーもちろんある。それこそ名古屋みたいな街は厄介だよね。

柿次郎 そうなんですか?

藤本 名古屋もそうだけど仙台とか。そういうリトルトーキョー的なところはやっぱりすごいしんどいと思う。変に経済が動いているところが1番やばいと思ってて。

柿次郎 あー大阪もですね。

藤本 ぼくの地元の神戸とかもそうで。来たらみんないいって言ってくれるけど、日々住んでいる自分としては、手の打ちようがないっていうか、神戸市の役所の人たちもほんまにあかん人多いしなあ。

柿次郎 なるほどぉ。

藤本 だから逆に「もうどうしようもない!」って切羽詰まってるところの方が危機意識があって変化の過程特有のエネルギーがあるよね。

鳥井 中堅都市がやばいことになっているっていうのは正にその通りで。最近よく言われるようになってきましたけど、2~30万人位の都市。ちょうどぼくの地元の北海道函館市が27万人くらいなんですけど。そういうところってコミュニティーがないんですよ。その辺は変に東京ナイズされてるみたいな。

都市っぽくなっちゃってるから、互いに助け合う関係性もなければ共通の危機感もない。だから今ローカルで盛り上がってる場所って、大体3,000人とか、多くても1万人以内くらいの都市なんですよ。あとは財政面ですね。ある程度の中堅都市だと、いま街を仕切ってるおじさんたちは、この財政だったらこのまま逃げ切れるんですって。

藤本 へぇー。

鳥井 その後は困るかもしれないけどワシらは大丈夫だしね、みたいな話らしくて。一方、海士町なんかはもう、5年後すらやばい!っていう状況だったんですよ。そうなるともう、行政側も若い人たちに頼るしかない。もう背に腹は変えられないぞって言う感じで。半分ギャンブルみたいなんですけど。

柿次郎 切迫感が違いますね。

鳥井 人間みんなそうだと思うんですけど、頼られたり、任されたりすると力出ますよね。若い人たちがすごくやる気になって、で、意外とうまくいったっていうのが海士町の事例です。そうやって、大人が後押ししてくれる環境があるのはすごくいいなぁって思います。責任はとるけど、口は出しませんと。

柿次郎 わかりやすい! やっぱ数字入れて来ますねぇ鳥井さんは。

藤本 そうやなあ。説得力が違うわ〜。

会場 (笑)。

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柿次郎 なんか締まりましたね。

藤本 締まったな〜。

鳥井 ありがとうございます(笑)。

藤本 まだまだ全国まわっていきますので、またどこかでお会いできたらと思います! 今日はみなさん、ありがとうございました! ふたりも、ほんまにありがとう!

柿次郎・鳥井 ありがとうございました!

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編集・ライティング 今井雄紀(株式会社ツドイ

プロフィール

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藤本智士(ふじもと・さとし)
有限会社りす代表。1974年生まれ。兵庫県在住。雑誌「Re:S」秋田県発行のフリーマガジン「のんびり」編集長を経て、ウェブメディア「なんも大学」編集長に。自著に『魔法をかける編集』(インプレス)、『風と土の秋田』(リトルモア)など。編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』、『ニッポンの嵐』ほか、手がけた書籍多数。

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徳谷柿次郎(とくたに・かきじろう)
株式会社Huuuu代表。1982年生まれ。大阪府出身。47都道府県のローカル情報を届ける「ジモコロ」、全国の小さな声を届けることを使命とする「BAMP」という二つのウェブメディアの編集長を務める。NHK Eテレ「みんなの2020 バンバンジャパーン!!」にレギュラー出演中(月イチ)。

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鳥井弘文(とりい・ひろふみ)
株式会社Wasei代表。1988年、北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。新しい時代の生き方やライフスタイルを提案するブログ「隠居系男子」は開始から半年で月間25万PVを達成。2014年9月、株式会社Waseiを設立し、これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」を運営している。

2017.9.21 / イベント情報 / 「魔法をかける編集」(インプレス)出版記念トーク『のんびりジモと暮らし』レポート【藤本智士×徳谷柿次郎×鳥井弘文】現役ローカルプレイヤー3人が語る、地方の「カネ」と「ヒト」